これは果たして書いてよいか否か、随分迷った。あまりに社会環境が違う日本とフィンランドであるから。
以前楽員が耳栓をしていたことに驚いたと記したが、もう一つもっと大きな驚きがあった。それは休暇のシステム。規約としての正式なものはあいにく情報をもっていないが、総じて実に休暇が多い、と感じていた。長期休暇はもちろん日本とは比較にならぬくらい多い。ラハティ響の場合、夏期休暇は6月半ばから8月初旬まで、ほぼ2ヶ月。そして春の復活祭近辺も1週間から10日は休みとなる。クリスマス休暇も年末に10日ほど。新年は2日から平常の仕事に戻っている。この他に、通常土日は休みとなり、公演の都合で土曜日に何かが入ると、代休のシステムがある。その代休をまとめておいて、先の復活祭などの前後に持ってくると、長期休暇となるわけである。
夏期休暇はフィンランド人にとって何より大切なときで、家族で夏の小屋に過ごすわけである。電気もないところもある。ひたすらにのんびりと、くつろぎ語らい、飲食をともにし、時折親しい人を招いてお酒の席ともなり、そしてサウナである。もちろんボートを忘れてはいけない。この夏期休暇の時期に仕事は御法度である。秋からのシーズンの相談や打ち合わせのために連絡を取ることさえとても嫌がる。この習慣を知らないと大変なことになる!とラハティ響でフルートを吹く日本人の友人は教えてくれた。もちろん人口500万余りの国民すべてがこの習慣というわけではない。中にはこのような夏期休暇を嫌い、仕事を海外でする音楽家も多くなっているそうだ。ヴァンスカ氏も以前「自分は夏にこうしてのんびり長く休むのが嫌いなんだ」と語っていた。現在フィンランドに増えている夏の音楽祭を主催している音楽家は皆このグループであろうか。
平常のシーズン中であっても休む、ということで驚かされたことがある。ラハティでもヘルシンキでも突然本番に奏者が変わっている!ということが結構みられた。もちろん皆体調不良を訴えて急遽という状況だったのだが、この体調管理に対するケアが非常に手厚い。身体の不調はもちろん、メンタルな不調に対しても同じように休暇がもらえる。いわゆる「ストレス休暇」だそうである。それから楽員の人生設計を助けるような休暇もある。たとえば海外で勉強をしたい、(これは音楽に限らずである。砂漠を旅してきた楽員もいた)又パートナーが病気で倒れて働けなくなったので より収入の良いポストに1年間だけ動く、などの場合でも休暇というシステムで対応している。男性の子育て休暇は当然である。
これまで3年関わった中で、楽員の出入りが非常に多いと思った。今年はこのパートのAがいなくなる、その代わりBは戻った!などの光景が見られるわけである。理由を尋ねると上記の様々な理由によるものであった。今年のシベリウス音楽祭、ティンパニ、トランペット、クラリネットの首席が不在であったのはこのためである。日本とは相当に環境が異なる。一人一人の余裕が感じられる。しかし断っておくならば、決して彼等は高給取りではない。年末の高額の税金を恐れながら日々質素にすごしている。時間だけは裕福に使っていた。誰にとっても平等に。
2002年10月10日