吹奏楽 その2

吹奏楽で手がける作品の種類は多い。オリジナル作品、アレンジ作品と区分けされるが、音楽の種類もポップスから現代作品まで豊富である。アレンジの原曲は様々。管弦楽作品が多いが、ピアノなどの独奏楽器からの作品も存在する。オリジナルの世界も日々新作が生まれ、それが即座に音に出されるという非常に動きのある新しい音楽の分野だと思っている。ホルストの組曲はもう古典になっている。

 国立音大のブラスオルケスターという巨大な吹奏楽の形は、おそらく他にはないであろう。ここは100人余りの人数で演奏する特殊な吹奏楽のオーケストラだ。管弦楽のアレンジ作品をこのブラスオルケスターで演奏すると、驚くような音色と迫力となる。R.シュトラウスの「ツァラトゥストラはこう語った」のアレンジ作品で私はこのブラスオルケスターと再会することになる。それがもう11年前、1994年の7月の第35回定期演奏会だった。アレンジ作品といっても、ブラスオルケスターの場合は決してカットなどはせず、原曲のまま、原調のままで演奏する。もちろん管楽器にとって負担は多い。しかしアレンジの工夫と学生の力で見事な音が実現する。こちらもオリジナルの管弦楽作品と同様の勉強が必要で、それに加えて凄い数の段を持つ吹奏楽の独特のスコアと格闘しなくてはならない。現在はさすがに慣れてきているが、当初は目で追いきれず迷子になることも多々あった。作曲家によってスコアの編成の並べ方も多種多様。スコアから音が浮かぶようになるのに、多少時間がかかっていた。

 自分にとっての吹奏楽は、「管楽器、打楽器を中心としたアンサンブル」という捉え方であることは、以前どこかに書いた。吹奏楽の歴史を作ってきた定番の編成、演奏スタイル、サウンドの種類は大いに尊重し参考にしつつ、自分はその先にあるものを手がけていきたいと思って接している。以前はアメリカの作曲家が圧倒的に活躍をして世界中のバンドに膨大な作品を提供していた。最近はヨーロッパ諸国からの作品が広まっている。北欧も数は多くはないが、毎年新作が発表されている。国立音大、航空自衛隊、大阪市音楽団でこれまでにそれらを紹介させていただく機会を持てたのは非常に嬉しかった。

 世界中の新作を吹奏楽という世界は、いとも簡単にあっさりと初演をする。初演ができる。これはオーケストラの世界とは大違いである。需要が多いということと、需要と供給のシステム、流れがすでに出来上がっているということ。そして新しい音楽の分野であるため、管弦楽作品の300年にわたる古今東西の名曲に匹敵する質の作品がまだまだ量的に不足であることが理由であろう。

 確かに管楽器、打楽器のみの編成で試みられることに、制約はある。息を使う楽器であるため、長さへの限界もある。音色の幅も管弦楽と比較すると狭いと思う。しかしまだまだ開拓されていない種類のオーケストレーションがあるように感じられてならない。管弦楽作品の中で試みられている、実験的な組み合わせや書法を吹奏楽の中でももっと取り入れても良いのではと思っている。定番や伝統に縛られずに、軽々と新しい衣を身にまとう吹奏楽作品は、時代に晒されながら生き残るものも滅びるものもあり、未来への夢を持たせてくれる分野であることは確かであると私は思う。

 私はオリジナル作品を演奏するほうが好きだ。そしてアレンジ作品を手がけるときは、最近は「原曲」にとらわれすぎないように考えている。違うもの-と考えて接したほうが、音楽的な納得が多い。先日取り組んだ「ルーマニア民族舞曲-バルトーク」もピアノや弦楽作品での演奏を度々行ってきていたので、はじめは非常に困った。しかし管楽器独特のフレージングやバランス、アーティキュレーションをみつけていくと、不思議と原曲のメッセージはしっかり伝わるように聞こえてくる。テンポ設定が多少異なったとしても伝える本質は変わらないということはある。もちろん作品によってそれは異なる。

 コンクールという大イヴェントが毎年夏と冬にあるため、日本の吹奏楽界はそこを中心に回転している。この現象はまだまだ続くであろう。少子化対策で審査の形態も随分変わってきているようではあるが。いろいろといわれているコンクールの弊害、問題点も取り組み方でいかようにでも解決できることだと思う。大切に音を出すこと、合わせることを丁寧に取り組んでいるバンドの演奏は、とても素敵だと思う。派手ではなくてもその演奏により拡がる幸福感や満足度は客席だけでなく、演奏する生徒たちにも多くのことを残してくれると思う。こういう演奏には基礎力が必要だ。昨今どの分野でも「基礎力重視」というコメントが並んでいる。その通りであり、それは決して短距離走では成し遂げられない。競うということは上達のエネルギーになる。しかしその際に一番大切にしてほしいのは、人と比べることではなくて自分が育つこと。他人の素晴らしい点を、認められること。その心を育てる吹奏楽の世界であってほしいと毎年思う。

 指揮者としての吹奏楽との取り組みは今後も続く。日本から生まれる膨大な素晴らしい作品を、海外で紹介できる演奏の機会も持つことになりそう。もちろん海外の新作を日本に持ち帰るということも続ける。現在つながりを持っている北欧の作曲家たちの新しい言葉を、また素敵な演奏家たちと音にしていきたい。

2005年3月10日

 

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