秋の散歩

ハルヤンネ氏の来日記録が長くなりそうなので、小休止。彼らとのコンビは来年も形を変えて続きそうなので、その辺も盛り込みながらゆっくりご報告していく予定。

 今日は区民の無料検診。初めて体験する。30歳を過ぎてから定期的に受けていれば、今年の春のようなことはなかったかもしれない・・・・。保険センターも今時は明るい雰囲気で気分が楽だ。朝9時前に集合。名前を呼ばれて問診表を受け取る。マークシート方式。小部屋で集団で説明を受けて問診に備える。手馴れた女性の愉快な解説で、生活習慣病の予防の説明も受ける。検査のための絶食絶飲の意味をわかってくださらない人が多いと嘆いていた。牛乳を朝ごはんの代わりにした!と堂々宣言なさった方のお話など・・。

 そう、音楽家はなかなか検査や検診を受ける機会がない。オーケストラに所属していると定期的な検診があるそうだが、フリーの音楽家は自主的な管理が必要だ。そして音楽家の生活は大体が「このような生活はいけません」というモデルのような生活だ。夜遅い日々、演奏会の後、飲まず食わずを実行すれば体に良いのであろうが・・・。時間に追われる日々。オーケストラメンバーの日常を伺うと、想像を絶する。ストレスも多いと推察。一瞬にかける集中力を持続させることの大変さ。この点の心身のケアにおけるフィンランドの計らいは、以前エッセイにも書いたとおり恐ろしいほど手厚い。日本でそれを実行すればこの社会が崩壊するかもしれない。

 とにかく検診だ。説明が終了し、問診室に入る。いよいよバリウムか!なにせ昨夜9時から絶飲、絶食。水分もほしいし空腹でもある。10年ほど前に一度経験した、「イチゴ味」のバリウムを思い出していた。ところが・・・「バリウムいかん」と看護士の無情の声。「切腹経験あるもの、1年の期間を置くべし。さもなくば身体に危険なり」という説明。ようするにまだ切腹後半年も経っていないので、腸の癒着やもろもろ可能性がある、その場合バリウムによって負担がかかるので避けたほうが良いですよ-という暖かいご配慮だった。
かたじけない。かくして胃を撮影することは中止となった。他はすみやかに終わり退散。
現在いたって調子がよく、順調に目方も増えているので問題ないでしょう。

 空腹を抱えて気持ちの良い天気の中歩いた。駅のそばでいよいよ我慢できず朝昼兼用の食事とする。美味なり。少々高カロリーの食事だったので意を決して自宅まで歩くこととした。下町は徒歩散策が面白い。同じ道を通るのは好きではないので、あみだくじのようによろよろふらふらと歩く。近所で迷子になることも時折。歩くことは良い。つまらない考えを追い払い、建設的な考えに立て直す時間となる。部屋に引きこもることは心に良くない。体の細胞すべてに刺激を与えなくては・・・先日取り組んだ「春の祭典」はまさしくそのような作品だった。知的なゲームとなる演奏が多い中、それだけは避けたいと思いメンバーと取り組んできた。その分緻密な秩序という点で傷も残ってしまったが、それを補って余りあるものが奏でられたかと思っている。生物としての人間の喜び。作品の演奏は難しいが、小難しいことを考えずに原点で勝負!という心境になる作品だ。まだまだ面白い発見もありそうで、再挑戦の機会を楽しみにしている。

 今日の日差しは強かった。その中からいつの間にか金木犀の香りが漂う風を感じた。もうそんな季節だ。三味線屋を発見。自家焙煎のコーヒー豆屋も発見。文鳥と会話。多数の犬と出会う。(最近とみに犬の散歩が目立つ)このようにしてふらふらして、冬には今をときめくオリンピック選手の有名な実家を発見してしまった。おいしそうだったので今度買いに行こうと思っている。空腹に多量の食物が入ったためか、睡魔が襲う。ふらふらと前後不覚に陥りそうになる。道端で眠らないようにひたすら足だけ動かす。郵便局に立ち寄り素敵な切手を物色して頭も活性化させる努力もする。40分ほど歩いて自宅にたどり着いた。オレンジ色のインド綿材質の上着を着て、ふらふらと下町を徘徊していた怪しげな人間は私です。秋の散歩でした。

2004年10月6日
 

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