コンサート衣装

掲示板に衣装のことを書いてくださった人がいたので、ご紹介しようと思う。

 現在使用しているコンサートの衣装は3種類。既成の黒の上下スーツ、燕尾服、そして1年前に作ったマイデザインの黒の上下。

 私は女性用の上着は概ねきつい。肩幅が広くたくましいのだ。肩パットなど入った服を着るとアメフト選手のようになる。そして首が太い。着物は似合わないし優しい感じの服が似合わないし哀しく思うこともあったが、指揮という仕事のためには非常に都合が良い。もともとの骨格に高校時代の弓道の修行が加わって恐らく首の筋は発達したと思われる。お陰さまで重い荷物も割と平気。大きな頭蓋骨も安定して乗っているようだ。何が幸いするやら・・・それでも年齢とともに筋力は衰える。荷物も堪えるようになってきた。鍛え続けないと周囲にお世話になることが増えてしまう。気をつけよう。

 衣装の話に戻ろう。コンサートでタクトを持つようになってから今まで何種類か衣装の変遷が見られる。マニッシュなデザインの洋服も世間には増えてきていたので、既成のものでもいくつか相応しいものがあった。既成の上下スーツは上着の丈が長いことが気に入って使っている。生地は薄い。夏向きのデザイン。燕尾服はもう8年くらい使っているだろうか。これは男性用の燕尾服をそのまま使用している。直しはなかった。それをお店の人から言われた時は笑ってしまった。昔コンサートで両親が、お客様が「あら!この人女性だったのね」という会話をなさっていたのを聞いている。短い髪型の時はさもありなん・・。なぜ燕尾を使うか・・・別に伝統に則ってとか男性のようにということではない。やはり便利で使いやすく、指揮をしていて楽なのだ。適度な重さもあり、後ろに長いテールがあることで不思議とバランスも取れる。そして腕も動かしやすい。

 そして最近登場しているマイデザインの衣装。これは実はフィンランドで作った。ラフなデザインを仕立て屋さんに持ち込んだ。生地は自分で専門店に行き選ぶ。デザインと生地を持ち込んで、相談しながら立体的なデザインを決めていく。そして2週間ほどで作っていただいた。費用はとても公表できないほど安い。その第二弾をいずれ作ろうと思っている。自分がもっと動きやすい服を考えている。お客様には後姿ばかりお見せしている仕事である。その後ろ姿が音楽の邪魔をしないようにということは考える。背中に大きな柄が入っていたら、やはりそのイメージが音とともに浮かび上がってしまうことと思う。色はモノトーン。これも音に集中したいためだ。最終的には黒子になっていたい。それが指揮者の最も理想の姿だと思っている。その境地にはいつ辿りつけるか。実用的には腕が楽に動くこと、どんな動きでもすぐに基本の状態に戻るデザインであること。この点が特に燕尾服は優れていると思う。

 近年女性指揮者が増えてきて、いろいろなデザインの衣装を見ることができる。結構人の衣装も参考にさせていただいている。海外の女性指揮者たちは概ね簡単な黒の上下を着ていることが多いと思った。軍服のような堅いイメージの人と シモーネ・ヤング女史のような柔らかな衣装を選ぶ人と二つのタイプに別れているように思う。スサンナ・マルッキィ女史は背の高さとシャープなショートヘアを生かしたデザイン。柔らかな生地で長い丈のコートタイプの衣装だった。これも素敵だと思う。アヌ・タリ女史は硬質のデザインだったが非常にキュートに映った。シャーン・エドワーズ女史はサッパリとした木綿地のものを着ていらした。皆さんご自分に合わせて工夫なさっているのでしょう。

 指揮者の衣装ではないが、最近のコンサートは非常に衣装の選び方に幅が出てきていると感じている。楽な衣装、デザイン性の高いものというものに出会うことが多い。今フィンランドのオーケストラは、二つのオーケストラが女性に限り正式な衣装に黒以外を採用している。ラハティ交響楽団とタピオラシンフォニエッタ。ラハティは懐古主義のようにも思える色使いとデザイン。タピオラはモノトーンとシャープなデザイン性でモダンな雰囲気。両者ともオーケストラの特性とホームグラウンドのホールの色調に合っていると私は感じる。来週からのラハティ響来日公演では残念ながらこの新しい衣装にはお目にかかれない。やはり移動が多いとケアが大変のようだ。

 色を考えて着ることを私は好きだ。日常でも比較的モノトーンが多いが、年齢を重ねてだいぶ色への嗜好が変ってきた。今まで絶対に赤は着なかった私。又水玉模様や花柄は私の中では御法度だった。それが自己解禁された今何かが自分の中で変ってきたのだろう。しかし絶対にステージではモノトーン!

 このサイトの基本カラー、グリーンは私の大事にしたい色だ。グリーン・ホワイト・イエローの組み合わせが嬉しい組み合わせ。オレンジに対しては冒険心が掻き立てられる。ブラウン系は子供の頃から大好きな色で、恐らく自分の根源的な色。ブラックは衣装としては好きな色で必要な色と感じているが、日常の空間がブラックで支配されると悲鳴をあげてしまう。スチール製のブラックの家具などは最も苦手である。身の回りはなるべく木のぬくもりとトーンが存在していてほしい。

 衣装からだいぶ脱線してしまった。日本は物が豊富で且つ世界の文化を貪欲に取り入れてしまう文化の国なので、材質も色も溢れている。何を選択して、何を自分の側に置くか・・結構考えて選択していかないと自室がデパートのようになってしまう。たまにウィンドウショッピングをすると情報の多さにめまいがする私である。

2003年9月23日
 

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