音楽番組を見て

先日友人が「フィンランドのシベリウスアカデミーが写っているよ」と言ってテレビの音楽ドキュメント番組のヴィデオを貸してくれた。ロシアの名教師・名指揮者イリヤ・ムーシン氏のドキュメントだった。フィンランドにもこの指揮者の教えを受けた指揮者がたくさんいることは知っていた。ムーシンクラスのことは、2年前フィンランドに客演したイギリスの若手指揮者からも話を聞いている。

 番組制作はフィンランドのYLEというフィンランド国営テレビ局。ここは音楽番組をたくさん作っている。フィンランドでは日曜日のお昼過ぎに放映されることが多い。フィンランド放送響はこのラジオ局のオーケストラなので、RSO(Radion Sinfonia Orkesteri)とも、Yleisradion Orkesteriとも言われたりする。すべての定期演奏会は録音され放送されている。

 私はあいにくムーシン氏の実演に接することができなかったが、今回映像から非常に素晴らしい教師であろうことが窺い知ることができた。多くの苦難を乗り越えた穏やかな眼差しと深い洞察は、長い年月たくさんの優秀な若手指揮者たちに注がれていたのだろう。

 番組には現在活躍しているフィンランドの若手指揮者たちがたくさん出演していた。この番組は1997年当時を取材したもののようだったが、その当時アカデミーに在籍、または卒業して指導補助のような形で関わっている指揮者たちが勢ぞろい。何人か実際にレッスンを受けている映像があった。ミッコ フランクもいた。まだ当時18歳くらいではないだろうか。現在世界一若いシェフとして名前が知られているが、気の強そうなところは十分に見受けられた。現在の実演で感じる彼の音楽の特徴がレッスンからも少し感じられた。面白いものだ。スサンナ マルッキィも登場していた。彼女はレッスンは受けていなかったが、現在より少しふっくらしたボーイッシュな姿は変らない。トゥオマス オッリラがムーシン氏の弟子として語る場面が多かった。彼はラハティ響にも何度か客演している。オッリラは若くしてプロデビューを果たしている。割と物腰の柔らかな静かな指揮者だ。

 名前はあいにく不明だがフィンランド音楽界でよく姿を見かける指揮者たちも受講していた。ムーシン氏が直接アカデミーのオーケストラを指揮する場面もあった。以前エッセイに書いた、指揮科レッスンを行うホールである。小編成のオーケストラを使っていた。その演奏者の中に、ラハティ響の若手メンバーの姿もあった。
 
 学生時代の勉強仲間というのは貴重なものだ。指揮者というと、一匹狼の仕事ではある。同じ現場に二人はいらない。しかし修行中は別である。コンクール前に合同練習を企画したり、討論もした。自分の姿はなかなか客観的にわかりにくい職種なので、お互いのレッスンやコンサートの意見交換も時にはある。オペラ公演の副指揮者として複数で担当するときは、良い飲み友達になることもある。もちろんライバルでもあるので、腹の中は実のところは複雑だった人もいたかもしれない。しかし、ともに同じ目標のもと切磋琢磨していた時間は楽しく厳しき仲間との素晴らしい時間だった。そんなことを思い出しながらこのドキュメンタリヴィデオを見ていた。

 そして、別の日。今度は午前中のBSの音楽番組を見た。そこでワレリィ ゲルギエフ氏が親友のピアニスト、アレクサンドル トラチェ氏と連弾をしている姿が目に入った。ストラヴィンスキー「春の祭典」である。番組のコメントによると、この作品を両氏で何とか一人で弾けるようにアレンジを試みていたそうだ。このトラチェ氏こそ以前エッセイで書いたサロネン指揮フィンランド放送響に客演して私がリハーサルで譜めくりをすることになったピアニストだ。そう、フィンランドの待遇に少々ご不満だった氏である。

 実際トラチェ氏はとてもお話の面白いユニークな人、そして演奏に関しては神がかり的な集中力とテンションの高さで名演を生み出す演奏家である。ショスタコヴィッチとストラヴィンスキーの協奏曲を私は実際に聴いているが、奏でる音にどれも隙がない。そしてリズム感の素晴らしさに胸がすく想いだった。ゲルギエフ氏の無二の親友だということは語っていらした。一緒にフィンランドのミッケリ音楽祭も毎年行っている。私は滞在時期が合わずまだ音楽祭を訪ねていないのが残念。現在はアメリカの大学で教鞭をとっていらっしゃる。日本人の生徒も持っていたとおっしゃっていた。ヘルシンキとラハティでお目にかかったときもロシアから熱心なお弟子さんがかけつけていた。

 両氏の連弾の姿を見て、又昔の思い出にかえった。私もこの「春の祭典」を指揮者仲間と桐朋時代に2台ピアノで練習をしていた。三善晃先生の室内楽の授業でレッスンをしていただいたこともある。その時の相棒は今でも素晴らしい仲間でありライバルである。久しぶりに「春の祭典」を演奏してみたくなった。声をかけてみようか・・・・・

2003年8月22日
 

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