地球号の夏

陽射しが恋しいという夏はいつ以来だったか・・・予報では来週から太陽が戻り夏日になると言っているが、もうすでに八月も後半に入る。友人であるフィンランドの軍楽隊の指揮者から「素晴らしい夏だ!家族と5週間も泳ぐことができたよ」とメールが入った。ヨーロッパの熱波は凄まじいものらしいが、フィンランドでは丁度良い夏となっているのだろうか・・・まもなく当地に行くがその頃は季節は何になっているのだろう。

 異常気象の原因がはっきりしない、させない理由は一つには大国のエゴにあるということを、以前も一度書いた。警鐘を鳴らしている地球の声を聞く動きは世界各地で始まっている。いち早く動いていた北欧諸国の活動はあちこちでお手本になっているようだ。日本の雑誌などにも、北欧の生活スタイルなどが「スローライフ・スローフード」という言葉とともにクローズアップされている。単なるファッション感覚で終わらないことを願いたい。本当に危機的な状況だから。

 日本もしかり、大国と言われる国家は膨大な人口を抱えている。だから北欧の生活スタイルはそのままモデルとして取り入れることはできない。企業の利益もある、国としての国益もある・・・など等の理論でなかなか価値観を変えようとしていない国々が、いよいよこの地球号という宇宙船を破壊しようとしている。一方で、足元の危機を感じ価値の転換を図ろうとしている人々や企業もその同じ国に存在する。しかし国家の中枢が考え方を変えない限り大きな素早い転換ははかどらない。

 天災は運命だ。しかし天災に対応する知恵と技術を人間は持っている。こういう部分に人智を尽くし創意工夫をこらす喜びを忘れている。戦争・事件は人災だ。これは愚かな我々人間が好き好んで引き起こしていること。なぜ戦争を終えられないのか、なぜこんなにも事件が多いのか・・・今年の夏は非常に気になっている。

 3年前からフィンランドと接していて事件らしい事件に出会っていない。毎日膨大な人の生命が奪われている日本の状況は、決して普通の状態ではないということを、もう少し多くの大人が真剣に考えてもよいのではないか。地球という生命体の上で生かされている生物・人間でしかないのだ、私達は。特別な使命があるとすれば、この知恵を持って他の生命を守ること。地球の番人であること。自然の摂理を崩さず世界中の人の共有の住処である地球を維持すること。知恵はそのために授けられたものだろう・・・。

 生き抜くことが非常に辛い時代になっているとも感じる。耐えろ、がんばれだけではすまない状態までいっている。情報過多のストレス。大人だって「パニック!」になる。でも大人は回避できる能力や力がある。そのおかれた環境で自由に動くことができない子供達が明らかに犠牲になっている。自分が幼少の頃、未来へのワクワクする夢を大きく持てた。今の子供達の閉塞感は察するに余りある。能動的に知ること、理解すること、実感することの喜びを知らないで年齢を重ねている子供が多いと思う。我々は生物だ。人工頭脳ではない。全身で世界を感じて子供達が経験していくことを、大人は自信を持って見守っていくだけでよいのではないか。子供達それぞれのペースで。それが大きく子供を育てることにつながるのではないだろうか、そして根っこをしっかり持った人間を増やす大元にもなるのではないか。

 希望の灯火も見える。あちこちで駄目な大人に見切りをつけて子供に夢を託す動きが始まっている。未来への投資だ。教育環境の変化もその一環、そして子供に問題提起をさせるイヴェントも増えている。又以前の日本ではあまり積極的に行われなかった、議論という土壌を作ることも地道に増えていると感じる。利害関係に染まっていない純粋な気持ちと意見。作られたメディアの場さえも純化させてしまう、物事の本質をまっすぐに捉える眼差しと言葉。それらを若い世代から聞くと本当に力をもらった気持ちがする。公共意識の低い我々大人の日本人は子供の厳しい目からさらされる必要があると思う。

 10月に都内のある高校で講演の機会を頂いている。今日はその打ち合わせで高校を訪ねた。自宅から非常に近いところだったので驚いた。普段見かけている制服の生徒達を前に秋に何を話そうかいろいろ考えている。音符という言葉で語りかける作曲家達も、皆地球に同じように生きてきた人間だ。日々の思い煩いやそれぞれの価値観・世界観なども音符の隙間から感じられる。思想的に苦手な作曲家もいる。響きの感性に肌の合わない作曲家もいる。目の前の現実に接している人々と同じようにスコアが自分の側にあるとき、良い演奏ができるような気がする。

 暑い夏は戻ってくるのだろうか。この秋からは世界中台所事情が厳しくなりそうだ。

                               2003年8月16日
 

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