長距離バス

ラハティ-ヘルシンキ間はおそよ100キロ。高速道路が走っているので車で最短距離を取れば1時間あれば十分に到着できる距離である。ヘルシンキ在住のラハティ響団員はそれぞれ車に分乗して通っている。

 一般にヘルシンキへ通勤通学で利用している人の多くは公共の電車、バスを使う。料金は指定料金を取られる特急を使わない限りは電車の方が安い。しかし本数が意外と少ない。又夜遅くなると電車はない。そこで長距離バスである。

 正確な数字がわからないがバス会社は多い。複数の会社が同じ路線を走っている。ラハティ-ヘルシンキはほぼ毎時15分と45分に発車。逆は毎時0分と30分である。途中ヴァンター空港経由などすると2時間近くかかることになるが、普通の急行バスでは1時間半で到着。急行はPIKAという。急行バスはPIKAVUORO。急行列車はPIKAJUNA。ちなみにこちらのテレビでも「ピカチュー」は人気である。お店にもグッズがある。

 ラハティはフィンランドのほぼ中央ライン上にあり、ここを経由して東西に、又北上するバスが多い。そのため便利な場所となっている。経由する本数が多いため深夜でも30分待てば乗れる。ヘルシンキからの帰りにはとても助かる。料金は正規のもので、現在片道17.5ユーロであるが、学生料金はそのほぼ半額。そして回数券(カードになっている)を購入するとやはりほぼ半額になるためやはり電車よりも便利になっていると思う。

 1時間半の旅も繰り返すうちにいろいろな使い方をしている。車中で文字を読むと酔いやすいので細かいものは読めない。ヘッドホーンもあまり好きではないので音も聴かない。格好良く言うと熟考の時間。いつしかそれは熟睡に変わっているのだが・・・。頭の中で交響曲を鳴らして反芻しながら過ごすとちょうどヘルシンキ入り口になることが最近は多い。

 バスは満員になることはほとんどない。大型の観光バスのサイズである。しかし週末に自宅に帰る人を乗せる便に出くわすと満員である。ヘルシンキからロヴァニエミというラップランド入り口まで走るバスは季節によっては乗車率が高い。夏はサヴォンリンナ方面へも乗客が多くなる。普段は隣の席はほぼ空席。みな思い思いの格好でくつろいでいる。携帯電話のマナーがあいにくあまりよくない国だと思うので、その点で時折車内も煩くなるが、それでもほんの一人二人が話をしているくらいである。もともとが静かなのでほんの少しの音が目立つということだろうか。

 一度面白いことがあった。ヘルシンキからの深夜の帰り道、しばらく走っていると運転手が急に高速道路上でバスを止め、通路を後ろにつかつかと歩いてきた。バス後方にトイレの設備があるが、このドアをノックして「出ろ!」「・・・・」「タバコを車内で吸ってはだめだ!」中から出てきたのは 少しお酒の入った大柄な男性。「Anteeksi ごめんなさい!」とぺこぺこして席につく。またしばし走ると再び急停車。今度はかなりお怒りの顔つきで再びトイレに。「降りろ!」「・・・・・・」「車内禁煙は規則だ!」「・・・・」そこへ他の乗客の声が入る「私も同じ意見よ。吸いたいなら降りなさい!」「そのとおり!」などなど・・・アルコールで気持ちよかったおじさんは赤い顔をますます真っ赤にして、すごすご最後尾の座席へ退散。でもこれは特別のことではなく、フィンランド人は規則違反には厳しいと思う場面に良く出会う。世代によっても異なるが、40代以上はそのような気質が強く感じられる。10代の若者は全く異なるのだが・・・。政治がクリーンであることは評判だが 身分の差が存在せず公平に男女同権で作り上げてきた国家を守る意識は ルールを守るということに強く反映されているのだろうか。

 空港を経由するバスに乗ると、いろいろな人に出会う。休暇を海外で過ごした人は、お土産を手に楽しそうな話を仲間と時には運転手も交えてしている。先先週も深夜12時頃空港を経由するバスに乗ったが、旅行帰りと見られる年配のご夫婦二組が乗ってきた。結構長期留守にしていたようで、フィランドがこんなに暖かくなっていることに驚いていた。そして選挙の結果などを運転手と話をしていた。たいそう賑やかなバスになった。

 日本に行ったことがあるよ、という漁師の人に以前話し掛けられたことがあった。北方の海で仕事をしていたらしい。日に焼けた明るい人だった。「横浜も知っているよ」と語っていた。音楽が趣味で息子さんとギターを弾いて歌うのが楽しみだということ。ラハティのオーケストラで研修中の折だったので ヴァンスカ氏を知っているか尋ねたら「tottakaiもちろん!」ということだった。

 現在も夜7時ころまで日が残るようになったが、白夜の季節6月から8月は深夜バスで走るのはとても気持ちがよい。ヘルシンキで演奏会を聴き、食事などして戻ると真夜中に走ることになる。美しい夕焼けの空がこの時間に見られ、太陽がひと時完全に沈むと再び上がって来る。その壮大で美しい景色には音も何も必要ない。無の時間を楽しむ。

 ヘルシンキに部屋を見つければいろいろなことに便利なのだが、何よりラハティという土地が好きで、そこのオーケストラが魅力で、そしてこうしてバスで時間をかけてヘルシンキに出かけてゆくことがとても貴重な時間に感じる。そのため今しばらくはラハティを拠点にすることとなるだろう。

2003年3月29日
 

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