シベリウス音楽祭2008  日本シベリウス協会会報原稿

 

シベリウス音楽祭2008
 
 9月11日~14日にフィンランド・ラハティ市で開催されたシベリウス音楽祭は今年で9回目を迎えた。筆者が拝聴したオーケストラの係る三日間についてレポートしてみたい。
今年より音楽祭の音楽監督にユッカ・ペッカ・サラステ氏を迎えての新しいスタートであった。1956年生まれのサラステ氏は、前任者オスモ・ヴァンスカ氏より3歳若い。しかしそのキャリアは長く1987年にフィンランド放送交響楽団首席指揮者に就任、2001年までの長きにわたり務めた。1994年-2001年トロント交響楽団の音楽監督を、2002年-2005年にはBBC交響楽団の首席客演指揮者、そして2006年からはオスロ・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督にも就任している。初来日は1987年、NHK交響楽団を指揮している。1988年に東京フィルハーモニー交響楽団、1989年には読売交響楽団にも客演。最近では2004年のNHK交響楽団への客演が記憶に新しい。
昨年までの8年間、シベリウスホールが完成してから始められたこの音楽祭では、ヴァンスカ―ラハティ響のコンビによるBISのシベリウス全集とタイアップする形で、未収録の小品なども盛り込みながらいわば「ここでシベリウスのすべてをお見せします」という形の音楽祭であった。それは大変に刺激的で、そして年々オーケストラは多忙になる中でますます自信を持って「自分たちのシベリウス」を演奏し続けていた8年間であった。その緊密な時間を引き継いだサラステ氏による初めての音楽祭。これから3年間続くことが決まっている。
 
2008年 
9月11日 19時~
序曲ホ長調  
エン・サガ(オリジナル稿)作品9 
カレリア全曲 (アンコールなし)
9月12日 19時~
クリスチャン2世 組曲 作品27 
レンミンカイネン組曲 作品22(アンコールは 歴史的情景第1番からフェスティーヴォ)
9月13日 17時~
劇音楽 雪の平和(語り ラッセ・ピョイスティ 合唱 ドミナンテ&ムルトソイントゥ)作品29  釈放された王妃 作品48(合唱ドミナンテ&ムルトソイントゥ) 
交響曲第1番 フィンランディア(アンコールなし)
9月13日 13時~(カレヴィ・アホホールにて)エーロ・ヘイノネン ピアノリサイタル
     
9月14日 声楽とピアノ ヘレナ・ユントゥネン(ソプラノ) エヴェリーナ・キュトゥマキ(ピアノ)
 
今回もリハーサルから立ち会わせていただいた。いずれの作品もヴァンスカ氏との録音や演奏会で接してきた。オーケストラと指揮者の関係は、人間の個人的な関係を築くことと近い部分もあり、はじめての出会いというものはとかく緊張と遠慮とお互いの探り合いがあるものだ。リハーサルではまさにその姿を見せていた。どちらもそれぞれの活動の中で「シベリウス像」をはっきり持っている指揮者とオーケストラ。ただしその解釈、演奏スタイルが異なる。ある意味非常に厳しい時間を過ごしていた両者だったと思う。サラステ氏はオーケストラの自主性を引き出し、そこにゆだねる部分がヴァンスカ氏に比較して多い指揮者だ。それが今回大きなサイズに変わった(弦楽器は14型)ラハティ響からこれまでとは異なるタイプの豊潤な響きと広がりを生み出していたと思う。異なる解釈やテンポにはサラステ氏は厳しく自分の意思を示して変えていく、またソリスティックな部分にはほとんど奏者に任せる。その自在な指揮スタイルはヴァンスカ氏と大いに異なる。
オーケストラ側の意見を少し伺うと、新しい刺激とやり方を今はお互いに模索しているところでこれからを楽しみに・・・・という話が多い。もっともだと思う。これだけのプログラムを各1日しかリハーサルをとっていない。それはオーケストラがこれらの作品をレパートリーとして持っていることの証でもあるのだが、新しく向き合う指揮者にとってはある意味時間が不足することも事実だ。しかしレンミンカイネンと交響曲第1番はトロントからマエストロ自らの書き込みのあるパート譜を持参してのリハーサル。その点でも今後の作品についてサラステ氏のこだわりが楽しみになる。ベテランといってもよいサラステ氏が今回の音楽祭で見せた方向性は、これから3年間できっと新しいシベリウス像をラハティ響から作り上げることとなると確信した。
 
2009年は次のプログラムである(2009年9月10日~13日)
 
9月10日 鶴のいる風景 ルオンノタール(ソロ ヘレナ・ユントゥネン)交響曲第2番
9月11日 木の精 ヴァイオリン協奏曲(ソロ ヘニング・クラッゲルード)交響曲第3番
9月12日 ポホヨラの娘  大洋の女神  夜の騎行と日の出 吟遊詩人 交響曲第4番
 
年代を追っての3年間を作り上げることがわかる。2010年、サラステ氏の最後の回は後期の交響曲を取り巻く作品を楽しみにできる。
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