2012年全日本吹奏楽コンクール 課題曲へのひとこと

このコメントは、相愛ウィンドオーケストラのウェブサイトに掲載されたものです。こちらのページも併せてご覧ください。

Ⅰさくらのうた  福田洋介作曲

 

*抒情的な作品ですね。管楽器という同族楽器で美しいサウンドを作る醍醐味を味わえる作品だと思います。力まず自然にバンド全体で八分の六拍子を作り出してゆくことが良い流れへの原動力ですね。

 

*旋律は現実的には伸び縮みしています。音値はリズムの上で微妙に変化をして、結果的に自然な歌に聞こえるようになります。それが作為的にならないためには 徹底して旋律を歌うことだと思います。よい旋律は自然に「うたいたい」ポイントが定まっているものです。その歌が歌いやすいようにグロッケンシュピールも微妙に揺らぎます。それが自然な流れを生みます。

 

*作品全体を通して「強い」表情や音がほとんど出てきません。【G】以降のpoco a poco con motoを経て初めてffに到達する作品のクライマックスまで その山を生み出す歌心の静かな情熱がバンドで共有できていれば この山を自然に登れるでしょう。

 

*静かな音、平板な旋律は決して「力弱く」「消極的」ではありません。心の深くから歌っていないと、何も伝わらない音楽になります。その内側の気持ちの強さがこの作品を支えることになります。

 

*プラルトリラーが様々な箇所についています。この処理については指揮者の判断、演奏者のセンス、両方をあわせて練り上げる必要があります。求められている旋律の表情、スピード感によって、どの速さ(リズム割)で演奏するのがふさわしいか・・が異なってくるからです。

 

*また併せて、木管楽器に多く出てくる十六分音符6つの塊を どのような音圧・音色・強弱の処理で演奏するのか、その統一はこの作品の抒情性の背景を作ってゆくと思います。

 

*打楽器の繊細な使い方にも注意が必要ですね。ウィンドチャイムを上行、下行どちらの方向を選択するのか、奏者にまかされている楽譜です。また、どの打楽器もその音色が旋律に与える効果を考えられて楽譜に記されています。そのことをよく理解して丁寧に音作りをしてください。

 

Ⅱ行進曲「よろこびへ歩きだせ」  土井康司作曲

 

*気品というのは何から生まれるのでしょうね・・。今年はエリザベス女王即位60年、そしてロンドンオリンピック・・と世界の視線が英国に集まっています。英国にはエルガーという大作曲家がいて5曲の行進曲集「威風堂々」を作曲しています。第1番はもっとも有名で中間部の旋律も歌手によって歌われていますね。いずれの作品も勇壮・華麗な行進曲部と気品あふれる重厚なトリオの旋律があり、何ともいえない長い王朝時代を持つ英国の雰囲気を感じます。

*この行進曲にはそのエルガーの描いた世界と非常に近い音楽の色合いを感じます。Maestosoと冒頭に指示がありますが、ゆったりと余裕のある歩みを意図していることを読み取れます。余裕という言葉がこの作品の演奏には必要だと思います。

 

*冒頭のファンファーレも音域は低く始まっています。また全体を通して決して音の数は多くありません。つまりほしい響きに対して、演奏者がそれぞれしっかりと余裕をもって自分の音を響かせることが必要になります。

 

*【A】を演奏してみるとおのずとわかりますが、スタッカートの指示がある旋律も、決して軽い音を求められているわけではありません。低音域でのリズム処理も、切ることに意識を集中してしまうと響きがとても薄くなります。まずはしっかりと楽器を鳴らすこと、そして作品全体のテンポ感、リズム感に身体がフィットしてきたときに、きっと語り口も明確になるでしょう。

 

*作品の最後がもっとも華やかな響きを求められています。ここまで響きの体力を持たせること。それがこの作品の持ち味を生かすことになるでしょう。

 

 

Ⅲ吹奏楽のための綺想曲「じゅげむ」 足立正作曲

 

*実に面白い作品です。言葉遊びは音楽の中に時折盛り込まれますが、本来音楽と言葉は密接に結びついているものですので、それを特徴的に際立たせた曲として思いっきり遊び心あふれる演奏をしてみてください。

 

*「じゅげむ・・・」の言葉とともに演奏するという練習は皆さんなさっていると思いますが、日本語は強弱のアクセントが少ない言語です。音楽的に少し強調して語り、そのニュアンスが音に出てくるようになるまで徹底してください。

 

*有声音・無声音・長母音・短母音など、言葉の中にもいろいろな音があります。それをどこまで音に反映してゆくか、その確認も必要ですね。

 

*序奏のリズムは心躍るものですが、「じゅげむ」原作ののどかな可笑しさというものにつながるような、和のリズム感をどこかで意識しているのが良いと思います。細かな音符も「つまったり」せずに、日本語が乗っかる粒立ちを心がけるとよいでしょう。

 

*【E】の中間部が自然な流れで歌い始めるためには、3小節前の「ブレーキ」部の作り方にカギがあるようですね。バスドラムに和太鼓のイメージを感じて、和の間合いが生まれてくると面白い転換が可能になります。中間部の歌い方も、日本語のアクセント感を意識した節回しを作るか、あるいは中間部は雰囲気を変えて和声構造にのっとった運びで、西洋風の旋律線を描くか・・・それをきちんと統一することで効果が上がるように思います。【F】からは、旋律だけにとらわれず、トロンボーンを中心としたオブリガート、あるいは和声を構築するセクションの強弱の書き方、フレーズの作り方を読み取ると、大きな音楽を描くことができます。

 

 

Ⅳ行進曲「希望の空」 和田信作曲

 

*作曲者、和田信さんは実は以前教え子でした。音楽大学の吹奏楽授業で、そして個人的に指揮とスコアリーディングをレッスンしていました。現在航空自衛隊中央音楽隊で活躍しています。空の広がり、雲の美しさを描いたこの美しい行進曲のスコアを見て、その人柄を感じます。

 

*タイトルにある Silver Lining は航空自衛隊隊員ならではの視点ですね。雲の裏側の光は一般には見ることがなかなかできません。この言葉には「逆境の中の希望の光」「明るい見通し」という意味があります。現在の日本にもっとも望まれている言葉です。
その想いの通り、爽やかで素直な気持ちで明日を信じて歩みたくなる行進曲です。

 

*行進曲の拍子には四分の二拍子、二分の二拍子、八分の六拍子・・・と様々にあります。この作品の八分の六拍子は、とかく「難しい」と言われますが、ヨーロッパには昔から行進の様子を表す時にこの拍子は多く使われていました。ほとんどが王侯貴族など身分の高い人の行進の様子です。いわゆる三拍子系が一拍に入っている感覚はなぜ生まれたのか・・・そこを考えてみるとこの拍子はとても自然なものなのだということがわかります。

 

*一つには人間の心臓のリズム。二拍子系のリズムではなく三拍子であることは医学的に証明されています。トク・トク・・・ではなくトトン・トトンというようにンの部分の時間がちゃんと存在しているそうですよ。一歩足を踏み出す時に三つの音が身体で響いているということを感じると、意外にしっくりすると発見できます。

 

*王侯貴族の行進には馬がつきものです。多くの従者、馬車がお供としてついてきます。二本足で素早く歩くより少し余裕を持った行進のイメージ、それを持つことでもこの拍子の感覚はつかめると思います。

 

*冒頭の3小節、導入のモチーフが各部に効果的に使われていることを、演奏の折に意識してください。構成がより明確になってきます。

 

*トリオの部分は【G】から前半、後半でメロディのアーティキュレーションが異なることを、丁寧に表現してください。【H】はそのバリエーションになりますが、より明確な語り口を作り上げることで、トリオ後半への流れが作られることでしょう。全曲を通してトロンボーンの役割が重要です。

 

 

Ⅴ香り立つ刹那  長生淳作曲

 

*筆者は長生淳さんの作品を回数多く手掛ける機会をこの10年頂いてきました。委嘱作品も2曲。

長生さんの作品は「演奏者への挑戦状」、自分はどの作品と向き合うときもそれを感じていました。その挑戦状には長生さんの音楽への愛にあふれ、演奏者への信頼と愛情にあふれているものです。受け取ったからには見事に受けて立ちたいものです。

 

*とはいえ、この作品のページを見開くと「これは・・何語?」と感じる方も多いと思います。もちろん長生語であります。過去の長生さんの作品を並べてスコア分析することも一つの方法でしょう。つまり作曲者にはそれぞれ、特徴をもった語法・文法が楽譜に現れています。その言葉づかいがどのような意味を持つのか、何を表現しているのか・・・ほかの作品の分析からヒントを得ることも大事なことです。

 

*連続する音型、複層的なリズム、強弱の遠近法、頻繁な強弱の変化、自由な連続から同一の音型への

緊張と弛緩・・・・長生作品の特徴を羅列するとこのようなものでしょうか。考えてみるとこれは我々を取り巻いている現象の写し絵だと思うのです。世の中は小節線もなければ、特殊事情を除いて決まったリズムですべてが同じように動いているわけでもなく。声の大きい人も小さな人もいる。成長の速度の違いもあり、カオスのように一見見えていますが、その姿を遠くから見ると実はバランスよくなりたち、様々な単位で物語が流れ、意味が生じ・・・・という音楽のドラマと同じことが起っています。

ランダムに並ぶ事象がお互いに影響を与え、受け、見え隠れしてつながってゆく・・・そんな様子がこのスコアにも見ることができます。

 

*具体的なアドバイスとしては、

・すべての音型に何か意味があるという確信をもって演奏すること。

・強弱のバランスが必ずしも音楽の主従関係を作っていないということ。

・音符が作り出す時間は自由であるという認識を持つこと(ゆらぎの意識)

・音色もリズムに影響することを意識。

・ほかの音型をすべて耳に入れて演奏できるまで、各自がスコアを読み込むこと

 

*自分のパートを細かく練習することはすでになさっていると思いますので、その細部がどのような意味を全体に与えているか、それを指揮者の方は一緒に考えて答えを導きだしてください。音が時間通り正確に並んでも、作品の言葉は聞こえてきません。それはどんな作品でも同じですね。

 

*作曲者が望んでいる「楽譜から先のところ」の世界。吹奏楽の世界がそこにみんなの意識が集まった時、可能性は限りなく広がると思います。音の力を信じて、様々な挑戦をこの作品では行ってみてください。

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