北欧祭 中日新聞エンタ目

グリーグ、シベリウスの年に

 はじめまして! 以前「紙つぶて」上でお目にかかれた方はお久しぶりです。音楽の話の旅にこれから皆さまとご一緒させていただきます。楽しい旅になりますように、どうぞよろしくお願いします。

 

 今回の旅は北欧。私はこの地域に注目して十五年ほど、そして文科庁の研修で二〇〇〇年に住居を構えてから八年間ご縁をいただいています。コンダクターとしては、よく知った得意の地域から始めてみようという魂胆です。

 北欧をトップバッターに挙げた理由がもう一つあります。二〇〇七年は、二人の北欧出身の作曲家にとって記念の年。「ペールギュント」でおなじみ、ノルウェー出身のエドヴァルド・グリーグ(一八四三-一九〇七)の没後百年、そして「フィンランディア」でおなじみのフィンランド出身のジャン・シベリウス(一八六五-一九五七)の没後五十年です。北欧を代表する作曲家二人がそろってメモリアルイヤーとなったので、これをライフワークとする私、おかげさまで大忙しの年となっています。

 日本には「日本シベリウス協会」という組織が二十年ほど前からあります。初代の会長がフィンランド人の血を継ぐ指揮者、故渡邉暁雄先生、現在の会長がフィンランド在住四十年を超えるピアニスト舘野泉先生。協会は特別企画を開催し、<シベリウスの遺(のこ)したもの>というタイトルのもと、演奏と学術の分野でその実像に迫ります。

 シベリウスは交響曲を七曲残していますが、実は八番目も作曲しました。のちに楽譜を破棄してしまったのです。その残された一部のスケッチから八番目の交響曲への研究が近年音楽学者によって発表されました。それをもとにレクチャーも開催します。ヨルマ・ヒュンニネンという世界的なフィンランド人のバリトン歌手のリサイタルもあります。企画は九月から開催されます。近くなりましたらまたご紹介の案内を書きましょう。

 北欧五カ国の中でスウェーデン、ノルウェー、デンマークはゲルマン系の北欧、そしてフィンランドはこのグループとは異なる人種、異なる言葉を持つ国です。フィンランドには「カレワラ」という民族叙事詩があります。自然神、英雄、日常が多彩に語られています。このカレワラという素材を使って作曲家たちは多くの作品を残しました。

 シベリウスが一八九二年に作曲して出世作となった「交響詩クッレルヴォ」という作品があります。クッレルヴォはこの「カレワラ」に登場する男子の名前。五楽章からなる勇壮な交響詩です。兄と妹の悲劇を描いています。私は十二月にこの作品を東京新聞フォーラムで演奏します。

 森の神「タピオ」を題材とした「タピオラ」という音詩はシベリウスの最後の交響的な作品。「大気の神」「火の神」などを扱った作品もあります。いずれも空気の色や香りが感じられ、風景が思い浮かぶような作品です。日本の神話にも通じるものがありますね。

 名古屋フィルにこの秋に客演する素晴らしいフィンランドの指揮者をご紹介しましょう。ハンヌ・リントゥさん。リントゥというのはフィンランド語で「鳥」を意味します。九月十四、十五日の日程で定期演奏会に客演。シベリウスの第六番と第七番交響曲という後期作品の魅力が凝縮された二曲。これを一つのコンサートで続けて聴けることは素晴らしい体験になると思います。ほかにデンマークの巨匠ニルセン、そしてノルウェーの巨匠グリーグという作曲家が並んでいます。北欧を知るならぜひこの演奏会へ! お薦めです。(指揮者)

 

(2007年4月11日 中日新聞 掲載

目次
閉じる