夏の音楽祭あれこれ 中日新聞エンタ目

その土地の魅力楽しむ

 夏休みの旅の計画をされている人も多いことでしょう。今年はぜひ音楽祭のある街をお訪ねください。

 今年で三十三回目を迎える木曽音楽祭は八月二十三日から二十六日まで。二十八回目となった霧島音楽祭は七月十八日から八月五日まで。同じく二十八回目を迎えた草津夏期国際音楽アカデミーは八月十七日から三十日まで。いずれも素晴らしい自然を背景に持つ土地です。

 都内でも開催されます。第二十三回<東京の夏>音楽祭は七月二日よりおよそ三週間にわたってさまざまな企画が準備されています。今年は「島へ-海を渡る音」というテーマのもと世界の島の文化を取り上げています。北欧の島国アイスランドから、作曲家・鍵盤奏者であるヨハン・ヨハンソンが来日します。

 アイスランドは険しい国土ながらもそのメリハリある自然の中から数々の世界的な文化を生み出しています。北欧文学の原点となっている「エッダ」や「サガ」はアイスランドの文学です。国民一人当たりの読書量が世界のトップクラスとして知られています。日本同様火山国家です。まさに才能がマグマのように熱く潜んでいる国家です。

 日本国内の音楽祭で忘れてはならないのが、一九九〇年より指揮者故バーンスタインの提唱で始まった札幌で開催されるPMF。今年は七月七日より二十九日までの日程。主な公演は札幌をベースとしていますが、七月十一日には東京のオーチャードホール、同三十一日に愛知県立芸術劇場コンサートホール、八月一日に大阪のザ・シンフォニーホールでPMFオーケストラ公演があります。

 東京公演はリッカルド・ムーティが指揮を執り、シューベルト作曲の交響曲第八番「ザ・グレイト」をメーンに、マルティン・ガブリエルのオーボエでモーツァルトの協奏曲が並びます。名古屋と大阪はアンドレイ・ボレイコの指揮、一九九〇年チャイコフスキー国際コンクール優勝者のボリス・ベレゾフスキーのピアノでラフマニノフ作曲ピアノ協奏曲第三番、そしてスクリャービン作曲交響曲第四番「法悦の詩」などが予定されています。

 フィンランドも人口五百二十万人ほどの国ながら音楽祭の数は多いのです。「プロジェクト」という言葉が好きなフィンランド人の気質が表れているのかもしれません。有名なものはオペラの音楽祭のサヴォンリンナ音楽祭、東京二期会が一九九〇年に参加しています。そして室内楽の音楽祭として世界的に有名なクフモ音楽祭。この音楽祭はセッポ・キマネン氏と新井淑子氏によって一九七〇年に創設されゆっくりと規模を拡大しました。

 私は昨年金管楽器の音楽祭であるリエクサ・ブラスウィークと舘野泉氏が主宰のオウルンサロ音楽祭に出演しました。今年もオウルンサロ音楽祭で若手弦楽器奏者のアンサンブルである「ラ・テンペスタ」とともに三つのコンサートを担当します。オウルンサロ音楽祭は今年で十回目を迎えました。

 このような夏の音楽祭の特徴は何といっても開催される土地の魅力、そして音楽祭を主催し運営するその土地のボランティアの皆さんの魅力でしょう。音楽祭にはプロの音楽家たちによる演奏会はもちろん、同時にレクチャーやマスタークラスが開かれ、多くの若手音楽家が著名な音楽家の指導を受ける機会があります。そのクラスの修了演奏会を聴くのも一つの魅力です。

 煩雑な日常から離れ、一日中何らかの音楽が奏でられているという特殊な空間。改まってコンサートホールへ参じるいつものコンサートスタイルとは違い、生活の中の自然な音楽ということが感じられる素晴らしい空間です。多くのドラマを持つ自然を背景に音楽が雄弁に語ります。音楽家にとってもリハーサルとコンサートが毎日繰り返されるという過酷な日々ながら、その集中力の中でまた一歩作曲家の魂に近づくことができる魅力ある時間となります。

 ヨーロッパの夏は日が長いのです。特に北欧は夏至を挟んで一カ月は夜がありません。真夜中も太陽が地平線に隠れるとすぐに上ってきます。そうしてまた音楽の日々が始まるのです。(指揮者)

 

(2007年7月4日 中日新聞 掲載)

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