どんぐり 「放射線-東京新聞」・「紙つぶて-中日新聞」

熊が人里に出没するニュースが夏の終わりから紙面やテレビを賑(にぎ)わせていた。不足しているどんぐりなどのえさを人間の手で補おうという運動があり、それに対する批判も紙面に掲載された。私も反対派だ。一時的な温情が人間と動物の共存のバランスを著しく崩す。餌付けをした野良猫が毎日家の窓を叩くように、野生動物が人里を闊歩(かっぽ)し始める風景も夢ではなくなる。

人間が本当に真剣に考えなくてはいけないことは、野生の動物たちが人為的に加えられた自然界の変化によって生活を脅かされている事実だ。温暖化に代表される気象への大きな影響力を、人間の社会は勝手に作り出してしまった。これは地球という生命をもった惑星の自然な変化ではない。

 人智という才は、究極は限りなく遠く深い生命の謎を見つめるためにあると思う。そして想(おも)いは命の平等な尊さにたどり着く。平等であることと弱肉強食の自然の掟(おきて)は共存する。その共存のルールを勝手に壊しているのが人間だ。自然に淘汰(とうた)されてゆくもののスピードを加速させてしまっている。現在人間が生み出している数々の産業廃棄物などは、すべてひとつの生命体なのかもしれない。非常に手ごわく人の手に負えなくなっている生命体を生み出した人間。フィクションで地球外生物がたくさん描かれているがそれはもうすでに地球の上にたくさん存在している。

 ひとたび天災に見舞われれば、日常の生活は全く機能しなくなることは今年多くの人が体験した。日本が限られた国土の国家で、天災が宿命の国土であることに多くの自然科学の専門家は着目し見解を発表してきている。しかし人を動かし国家の姿勢を決める政府、政治家が自分の地盤の心配しかしていない国家ではその科学者たちの才も埋もれてしまうだろう。(指揮者)

「放射線-東京新聞」・「紙つぶて-中日新聞」
2004年11月17日夕刊 掲載

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