言葉と音楽 「放射線-東京新聞」・「紙つぶて-中日新聞」

音楽にお国柄というものが出る要因のひとつは言語にある。日本人の脳の働きと西欧人のものとは違うという研究結果がある。このことが言語習得と音楽において重要な意味を持つ。音をどのように認識するかという機能が母国語の言語によって異なるのだ。
 

 右脳左脳という言葉が一時期巷(ちまた)を賑(にぎ)わせていた。日本人も西欧人も言語は左脳で認識している。しかし虫の声や人の泣き声、笑い声などは、日本人は左脳、西欧人は右脳で認識しているそうだ。言語も母音の認識は日本人が左脳であるのに対し、西欧人は右脳で。このことは西洋の音楽の旋律の歌い方に大きな影響を持つ結果であろう。

 同じ西欧でもイタリア語やフィンランド語のように母音の多い言語に対して、スラブ言語は子音が多い。音楽を演奏すると一口に言っても、脳みそのレベルでは大きな違いがあるのかもしれない。また日本人は邦楽器の音を左脳で判別、西洋楽器は右脳で聴いているそうだ。これは面白い結果だと思う。邦人作曲家には両者の楽器をとりまぜて使用しての作品がある。自分の脳がこれをどのように認識しているのかテストしてみたい。

 演奏家にとって外国語習得は大切だ。西欧人は多言語習得の人も多い。日本語はあまりに言語形態が異なるため他言語習得への努力が必要。外国語習得はコミュニケーションの手段だけではなく、作曲家がどういう言語を使う人であったかを知ることは作品理解への大事な道筋だと思う。異なる言語を使う人が聞く響きは決して同じではないであろう。フィンランド人のシベリウスはフィンランド国内のスウェーデン語圏の文化地区で生まれ育ったため、実はフィンランド語が母国語ではないということも、作曲家への理解に大事な要素だ。(指揮者)
 

「放射線-東京新聞」・「紙つぶて-中日新聞」
2004年10月27日夕刊 掲載

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