制服 「放射線-東京新聞」・「紙つぶて-中日新聞」

夏の制服着用は辛(つら)かった気持ちが懐かしい。それにしても近年制服族といわれる職種の不祥事が増えているように思い悲しい。
  音楽家の制服はステージ衣装。最近はデザインも豊富になったが、コンサートのお客様は女性演奏家の衣装を楽しみにしている方も多いと聞く。
 

 指揮者の衣装は燕尾(えんび)服が圧倒的に多い。私自身も男性用の燕尾服をはじめとして何着かを用途と季節によって使い分ける。燕尾服というもの、前時代的で違和感を覚える方もいらっしゃるようだが、実際は機能的で指揮者にとって便利にできている。我々はお客様に背中を向けて仕事をしているわけだが、長いテールがあることで、自分の後ろ姿が不思議と気にならなくなる。また上着の前身ごろがあいている、ということは腕が非常に動かしやすい。指揮者はとにかく上半身の動きが激しいのだが、腕が動くたびに衣装がチラチラと動くのは演奏者にとって邪魔なこと極まりない。

 楽員は必ずしも指揮者を凝視しているわけではないのだが、大事な部分の確認のために指揮者の姿を視界のどこかにいれている。タクトや顔以外のメッセージで気になる動きがあると煩雑であろう。なるべくシンプルなデザインを皆さん着用しているのは、こういう理由もあると思う。

 また色はモノクロが多いのは作品の印象を衣装の色で限定することを避ける意味もある。音に色を感じる人も多いと思う。聴衆には自由なイメージを持っていただきたいものだ。逆にソリストは作品の色を感じさせるものを選ぶ人が多い。

 制服に秘められた仕事への誇りはどの職種も同じであろう。我々はステージ衣装を着用するとそこには日常から離れた世界が生まれている。(指揮者)

「放射線-東京新聞」・「紙つぶて-中日新聞」
2004年9月29日夕刊 掲載

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