車内安全 「放射線-東京新聞」・「紙つぶて-中日新聞」

最近電車内でトラブルの現場を見かけることが多い。時にはそれは電車を止めてしまう。車掌が争いを止めに入ったり争いの主たちを電車から降ろしたりして発車も遅れる。原因は「ぶつかった、押した…」。些細(ささい)なこと。解決方法はひとつ、すぐに謝ることだ。「失礼」「ごめんなさい」「すみません」。言葉はたくさんある。欧米の人々はすぐには謝らないと言われるが、日常的には決してそんなことはない。自分の行動が本意でなく相手に迷惑をかけたとき、うっかりぶつかったとき、どんな人ごみでも一言「Pardon me(パードン ミー)」「Sorry(ソーリ)」と短く声をかける。その一言でどれだけのことが救われるか。
 

  先日車中で思いっきりタックルされた。あわてて座席から立ち上がり降りようとした人に、通路に立っていた私はアタックを受けてしまった。どうやらその駅は間違いだったようで、その人物はまた座席に引き返したのだがあいにく何も声はなかった。私は人間に見てもらえなかったようだ。また満員電車から降りるときは大変な苦労がある。でもそれは乗客全員の平等な苦労だと思う。しかし多くの人は自分の周りにいる人の背中を人間とは感じていない。自分の降りる駅に着けば、自然と道は開かれると感じている。それがかなわないと戦車のように突進が始まる。一言「降ります!」といえば通じるのに。これだけ密集地帯の都会では抱えるストレスも猛烈なものだ。

 言わなくても分かり合えた、古(いにしえ)の日本ではもはやない。言葉をかけあって、お互いを認識して社会性の力を磨いていかないと車内はまもなく戦場と化すかもしれない。(指揮者)
 

「放射線-東京新聞」・「紙つぶて-中日新聞」
2004年9月1日夕刊 掲載

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