音楽オリンピック 「放射線-東京新聞」・「紙つぶて-中日新聞」

今回のオリンピックでは君が代が何度も聞かれ嬉(うれ)しいことだ。このアテネを目指して技を磨き己(おのれ)を鍛えてきた選手たちが見事にその舞台で華を咲かせていることは何よりすばらしい。戦い方、戦う姿勢もずいぶん変わってきた。ストイックな頑張り方だけではなく、多くの応援を上手に味方につけられる逞(たくま)しさが眩(まぶ)しい限りだ。

  音楽の世界でもオリンピックさながらの熱い闘いがある。アマチュア吹奏楽のコンクール。これは高校球児と同様に全国の地区予選を通過した団体が集って秋に全国大会が開かれる。その参加団体の数は膨大なものだ。例えば今年の東京都大会、中学校の参加数だけで380校あまり、私も昔参加したことのある神奈川県の吹奏楽では現在小学校から一般団体まであわせると650あまりの団体が吹奏楽連盟に加盟しコンクールに参加している。
 

 審査員も何度か経験したが、1日40校ほどの演奏を聴き審査する。朝9時前から夕方6時までの時間を要する。これを地区大会などでは3日連続で行う。演奏も審査も大変だ。ほんの十数分の演奏のために春から練習を積んでくるのである。情熱は伝わる。それに点数をつけることの辛(つら)さ。音楽は勝負事ではないと強く思う。しかし実際は吹奏楽コンクールの全国大会常連校に対しては「あの学校は強い」という言い方もされる。

 コンクールを勝ち進むノウハウも磨きあげられ、まるでスポーツだ。優秀な名物コーチも全国にいる。しかしアマチュアの吹奏楽コンクールはお互いの演奏を味わう場であってほしい。音楽は記録や数字では表せないものを音に乗せて表現する。団体の数だけ表現はあって良い。アマチュアとは豊かな楽しみを知っている人たちのはずだから。(指揮者)

「放射線-東京新聞」・「紙つぶて-中日新聞」
2004年8月25日夕刊 掲載

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