オーケストラ・エレティール第64回定期演奏会終演

オーケストラ・エレティール第64回定期演奏会終演。ご来場頂きありがとうございました。
どこのアマチュア楽団もリハーサル環境、回数確保に苦慮していた時期を経て、緊急事態宣言解除の今、公演が実現しています。通常とは違う歩みの中、運営スタッフの尽力には敬服です。事情で参加できないメンバーも多く、賛助の皆さんのお力もお借りしました。本当にありがとうございました。

30年を超えるご縁あるエレティール。前回は第60回定期演奏会、マーラーのSym.6を演奏した記念演奏会でした。
節目の回、また大きな編成での公演で共演の機会を頂くことが多く、今回の内容のプログラム、また小ぶりな編成人数での共演はエレティールの皆さんとは初めて。
コンサートマスターの大津山由貴さんとは彼女が現役の学生の時にもご縁が。今回と同じブラームスのSym.4をメインとするプログラムでした。あの時の思い出は・・・振り返らない方が良いかもしれません。「鬼ユリ」の歴史の一齣でした。
今思うとひどい指導者でありひどい指揮者でした。学生の皆さんには申し訳ないこと多々していましたね・・・。

プリントされたプログラムは部数限定でした。あとはオンラインで。

シューマンのSym.4(1841年版)に取り組むのは自分は二度目。前回は横浜国大管弦楽団との初共演の時。第2楽章にコンサートマスターのソロパートが存在するこの作品。今回もとても美しい音のラインを描いてくださったコンサートマスターでした。
実はSym.4の1851年版、改訂稿(現行版)は、まだ私は手掛けていません。勉強はしています。比較して、確かに未熟な点はありますが、どうしても第一稿の方に惹かれます。Sym.1「春」の後に続いて書かれた作品。本当は2番目のシューマンの交響曲。のちに改訂して第4番という位置になっています。フレッシュな息吹が1841年の方に強く感じます。作品の言葉が、Sym.2,Sym.3よりも若い、と感じる部分が多く、作曲年代そのままの第一稿の形の方が良いと今の自分は考えて今回推薦しました。シューマン独特の語り口とオーケストレーションは、手ごわいものです。ピアノ曲、歌曲にもみられる微細な陰影、軽妙さと重厚さが目まぐるしく入れ替わる姿は、奏者一人一人のデリケートな感覚を要します。そして全体のバランスも大切。
ソロも多い作品。それぞれに本番ぎりぎりまで試行錯誤続けていた皆さんでした。

ボストンの指揮者が試行した配置資料

ブラームスのSym.4は今月末に別の楽団とも共演するプログラムです。ブラームス4曲の交響曲の中で私自身一番多く指揮をして、また若いころVnで弾いている曲でもあります。今回Robert Pascall校訂の新全集版の楽譜を使用しています。微細に以前の版と異なりますが、はっきりわかるのは第1楽章のVn1.Vn2のやりとりの部分でしょうか。
今回エレティールで試みた弦楽器の配置は、上記の資料を参考にしています。これはブラームスの友人である指揮者、ボストン交響楽団の初代指揮者ゲオルク・ヘンシェルが1881年に試した配置です。今回の弦楽器人数が9-9-5-5-4人というバランスだったので、思い切って試みてみました。以前からどこかで・・と思っていた形です。ただし、この参考図と異りVcは左右に分離させていません。Vnは両翼、対向配置。センターにVa5名、その後方にVc5名。そしてCbを左右に分けてました。後方にはおいていません。Vcの隣にそれぞれ位置するようにしました。結果的に効果があったと思っています。いつもと異なる位置でしっかり音を出すのがVa,Vcともに難しかったと思いますが、次第にその効果をリハーサルでも表していました。Cbが両翼になることは、奏者への負担が大きかったと思いますが、皆さん試みに前向きに取り組んでくださいました。管楽器からは好評でした。目の前にバスの響きとラインがしっかり存在していて、ブラームスの内声をつかさどるVaも近いという状況、いつもと感覚は異なりながらもきっと良いものができるであろうと・・・長年のご縁ある皆さんと試みた昨日の結果でした。
夏の一か月余り、リハーサルが全くできませんでした。合奏ができる会場が軒並み使用中止。多くの人数が集まることができなかった時期です。その期間の過ごし方をあとで私も含め猛省することになったのですが、とにかくラスト1週間の変化は大きかった。様々なことが良い方向に向かい、参加メンバーの力と演奏会にかける想い、音楽への心が結集した本番になったと思います。この作品のソロも、大変深い世界を持ちます。その表現に皆さん心を砕いて取り組んでいました。今回も素晴らしい音、歌が多く聞かれました。
エレティールは、とにかくリハーサルを蓄積してお互いに切磋琢磨、仲間同士刺激しあいながら公演に向けて楽しく歩みを進める楽団です。設立当初から、また母体の電気通信大学現役のことからのご縁のメンバーも多い。人生の半分ご一緒していることになります。私も年齢を重ねましたが、メンバーも大きく人生変化があります。昔のようにはゆかぬことが出てきている今、新たな歩みを模索していると思います。
今回、これまでと異なる姿のエレティールとご一緒できたこと、感謝しています。
皆さん本当にありがとう。そして助けてくださった賛助出演の皆様、本当にお世話になりました。

蛇足ながら・・
今回のホール、東府中にあります。ここは私が音大を出て初めに指揮者の仕事をいただいた場所。府中市民交響楽団の本拠地です。東府中駅目の前にある商工会議所で毎週日曜日の午前中にリハーサルをしていました。この楽団とのご縁から、のちの師匠尾高忠明先生とお目にかかることができました。桐朋学園に入りなおして正式に尾高門下となりましたが、ある意味「指揮」の世界の入り口の自分が存在していた場所が、この東府中です。駅前では38年なんとかタクトをもって生きてこられたことに感謝の気持ちをもって、心で報告しました。
そして38年後の自分の姿が変わったことが、そろそろクレームになりつつあるようです・・・・(笑)
「指揮者の方、変更になったのですか?」とお客様の声が届いたとのこと。
すみません!現状のグレイヘアのプロフィール写真を急いで準備します!そろそろ詐欺になりますかね。

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • 新田先生
    以前、お世話になった鎌響Pauken奏者です。
    今回、書かれていたオーケストラ配置は、非常に面白く読ませて頂きました。
    仕事の関係で、4年程住んていたことがあり、気がついたことをメールさせて頂きます。
    専門家ではないので、違っているかもしれませんが、ボストンのシンフォニーホールは舞台が非常に狭い=このような配置の効果が出やすいのではないかと思います。元々、ゲヴァントハウスを模倣したと言われるホールで間口も、奥行きも狭かったと覚えています。あのステージであればと思いました。違っているかもしれませんがコメントです。実際にボストン響が、古典の交響曲を演奏する時に、ビック ファース氏が演奏する時に、パウケだけ後ろの反響板に配置して演奏しているのを見たこともありました。やはり正統派のシューボックスで、良い配置があるような気がします。
    それとこれは関係ないかもしれませんが、ボストンシンフォニーは舞台が少し傾斜しています。つまらないコメントですみません。

  • こんにちは。コメントをありがとうございました。こちらのチェックミスで発見するのが遅くなってしまい大変失礼いたしました。
    貴重なご意見本当にありがとうございます。ホールの形状、ステージの空間の状況、天井の高さ、響きの質等々様々なことを合わせて考えてゆく必要がありますね。
    この時のセッティングはほかの公演(弦楽アンサンブル)でも試みてみましたが、人数以上に響きがしっかりと客席に届いたことはわかりました。今後も試行錯誤してまいります。
    ありがとうございました。

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