J.Sibelius Sym.6への試み

久しぶりのブログとなる。
先日公演を終えたばかりのJean Sibelius sym.6について少し書いてみたい。私自身この曲の指揮はSym1に次いで多く、シベリウスをやってみたい!というアマチュア楽団からのオファーが近年多い作品。シベリウスが好きであるという方のお話の中からも交響曲であれば6番・・・という声も多く聞く。
演奏者の立場からすると、聴いてよし、弾いて難し・・の最たる作品かもしれない。ドリア調の繊細な作品にしかけられた様々な音列は、美しく響くために大変な努力が必要。弦楽器のディヴィジョンで三和音を構成することの厳しさ。単純なユニゾンながらその音列がしっかりと旋法、調性にマッチするための音程の取り方等々、とにかく目が痛くなるほど耳を使う(私は音を集中して聞くときは必ず目が疲労する)

さて今回「名古屋ブルックナー管弦楽団」と試みたこの6番。昨年末に届いたJSW(シベリウス全集)の最新楽譜を基に、今一度細部を確認した。もともとWilhelm-Hansen版には多くの間違えが残っている。自筆譜と参照しながら自分は訂正を入れてこれまで演奏してきた。それでもまだ???の箇所は残っていた。今回JSWの校訂報告を読みながら、今一度自筆譜も目を通してこれまで行わなかった新しい2つのポイントに訂正を入れて演奏してみた。試みである。

まず一つが上記の写真、第1楽章冒頭オーボエが登場する部分。自筆譜を見た時に「!」となったまま、なぜその後の出版譜で変更になっていたのか理由がわからなかった。明らかに自筆譜と初稿のパート譜はアウフタクトは四分音符。しかしのちの出版譜では二分音符。それが訂正されないまま今日まできていることで、作曲者自身の訂正申し送りであったのであろうとされている。また初版のオーボエパート譜では訂正された跡が残っているという。JSW編集チームでは、証拠となる素材が不足しているため自筆譜を反映させることはしていないとあった。
シベリウスのリズムの特徴に、裏拍からの始動が多いこと、アウフタクトの効果的使用がある。【A】の前は弦楽器による繊細なアンサンブル。裏拍に埋め尽くされている旋律。二分音符、四分音符双方のアウフタクトがすでに出現している。
オーボエの後に登場するフルート、また38小節目からオーボエ主導で掛け合う旋律を見ると、自筆譜にある四分音符が自然に感じる。ただ、この【A】に登場するオーボエの役割は、それまでの弦楽器のフレーズを「一旦停止」に持ち込む動機。そのためのエネルギーとして二分音符の方が相応しいという判断も納得できる、これまでは自分もスコア通りその形で行ってきた。しかし今回JSWが今一度問題提起をしてくれたので、あえて自筆譜通りに行ってみた。現状での自分の答えは、自筆譜の方が良い!である。二分音符のアウフタクトでこの弦楽器(特にVn1)の旋律ラインに割り込んでくると、かなりの重量感をもたらす。主軸のVn1下行形に対して、音域の理由もあるがかなり強いイメージを作ってしまう。四分音符のアウフタクトを選択すると、オーボエの上行音型が停滞せずに一つの流れでVnに絡むことができるように思う。これはあくまで個人的な判断。


そしてもう一か所は第4楽章。こちらも自筆譜で興味深い情報を見ていながら、いわゆる斜線で消してあるページの情報のため反映されないか・・・と思っていたもの。JSWは新たに追記している。第4楽章の最後の部分ハープに導かれコーダに向かう弦楽器群。これまでの楽譜は【L】の部分で弦楽器に託したらハープは黙する楽譜。アルペジオがディミニエンドを伴い消え去る姿もはかなく美しいが、更に3小節、和音を伴ってこの部分の調整「F」を確立させる音を3つ示して終わるようになっている。今回これも試みた。私はどちらの可能性もあると考えているが、自筆譜と初版のハープパート譜にこの音が存在していたという事実を考えると、やはり初版スコアで落とされてしまった可能性も捨てきれない。シベリウスの娘婿ユッシ・ヤラスも自分のスコアには書き入れていたという(後日消した跡があるが、それがシベリウスからの指示だったかは明記されていない)

20回にせまる回数演奏してきた第6番だが、今回初めて試みたこと2点、まとめてみた。
JSWの校訂報告には「資料不足のため」あいまいにしていることがほかの作品でも残っている。研究者にすべての資料が託されてからまだ40年ほどしか経過していない。十分に新しい作曲家であり、新しい作品。まだまだ悩みながら読み進めたいと思う。

ところで、この第6番と第7番を続けて演奏するスタイル・・・・つながっているという考え方。
どうしても自分は納得できない。作品の世界が全く異なる。第6番の最後「レ」の音が、第7番の初めのTimpaniによる「ソ」の音へつながるアナリーゼは理論的には理解できる。「レ」~「ソ」~「ド」(7番の主調)の理論。
でもしかし・・・
シベリウスは5.6.7番は同時期に構想を得て書き始めていた。でもこの3曲の作品の世界は全く異なる。
天国に行ってこれらのことをシベリウス氏に質問することを楽しみに生きてゆこうと思う。

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