弾く 再開

昨年末のマエストロ・オピッツ共演にむけて昨年春の自粛期間から始めた、「ベートーヴェンのピアノソナタを全部弾いてみよう」の試みは、共演前に23番までたどり着いたところで一時停止。ベートーヴェンとは一生の付き合いになるはずなので、ピアノを再開した。23曲のソナタを弾いてピアノ協奏曲5曲に向き合った時間は、貴重な宝の時間だった。あくまで自分の勉強として弾いていたので、やや分析的な譜読みやベートーヴェンのほかの作品との関連を考える時間となったピアノとの時間だが、非常に有意義だった。これを最後まで続ける。
再開の1曲目は第24番。作品78。続く第25番の作品79とセットとみなされている。両方とも短いソナタ。
しかし性格は異なる。まず第24番は嬰へ長調という黒鍵を主とする調性。演奏はなかなかやっかい。しかし優美な2楽章形式。テレーゼ・フォン・ブルンスヴィック嬢に捧げられたため、「テレーゼ」と呼ばれることもあるソナタ。
1809年に作曲、翌年出版されている。ちなみに最後のピアノ協奏曲、第5番「皇帝」も1809年の作曲。
この作品は、音大生の時にレッスンを受けている。が、難しさばかり記憶していた。今回30年の時間を経て嬰へ長調があまり苦にならないことに驚いた。当時の楽器(この時点ではベートーヴェンはエラート社からの楽器を使用していたようだが)で、この黒鍵ばかりの響きがどのように紡がれたのか試してみたい思いに駆られた。最近ピアノフォルテによるベートーヴェンのソナタや協奏曲の演奏にも惹かれている。スラーという技法が鍵盤楽器の中で発展してきたのは、ベートーヴェンの功績も大きいようだ。この24番はその一つの「花」となる作品と思う。

そして続く作品79の第25番。ト長調。3楽章形式。この曲は子供のころにレッスンを受けている。今回弾きなおしてみて、第2楽章の記憶が全くないことに気が付いた・・・第1楽章と第3楽章は手が覚えていた事にも驚いた。40年は弾いていないはずだ。前の24番に比較して各段に易しい。其のやさしさゆえか、出版当初「ソナチネ」と記されていたこともある。ベートーヴェンが出版社にその名前を提案していたようだ。記憶になかった第2楽章は今弾いてみるとシンプルな美しさに感激する。そして第3楽章を弾いていて・・・「これは最近聞いている旋律だ」と頭に浮かびすぐに判明。先日演奏した、ドヴォジャークの交響曲第8番第3楽章トリオ部分に近似値を見つけることができる。もちろん時系列は逆であるが・・・。
ドヴォジャークやマーラーを輩出したボヘミアの地域からは、ベートーヴェンは様々な音楽の影響を受けている。
この2曲に続く第26番は「告別」と呼ばれる作品81a。この曲はまた深い内容をもち、当時味わっていた歴史の痛みが聞こえてくる。次回、そこに進もう。

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