穏やかな冬の日、トリトンスクエアガーデンへ。
このホールの常連になっています。アンサンブル・フラン。
昨日の疲れは心地よい疲れで気持ちは爽やか。
きっと今日は素敵な刺激と音の楽しみをいただけるに違いないという理由のない確信に背中を押されて、
行ってまいりました。
冴えてますね~~
その通りのコンサートでした。
第一生命ホールの響きにはこのアンサンブル自体がすっかり慣れているので、
ホームオーケストラのような落ち着きを持ってフランのメンバーは登場してきます。
もともと不思議な柔軟性、力の抜けた雰囲気を持ったまま集中力を発揮していくアンサンブルなので、
こちらも構えずに聴くことができます。
おっと、プログラムをご紹介しなくては・・・・
Rシュトラウスの組曲「町人貴族」、そしてFシューベルト交響曲第8番「グレート」
本日はN響の山口裕之氏が客演コンサートマスター
もちろん指揮者は不要です。
いません、ではなく不要なんですよね。
これは決して自虐的に申し上げているのではなく、
こういう素敵なアンサンブルの状態を指揮者としての自分も望んでいるのよ、という気持ちです。
子供のころN響定期会員の時代、注目していたのはコンサートマスターの席。
本日の影の指揮者は山口氏です。凡庸な指揮者100人いてもかないません。
そういうことを本日ステージで存分に見せてくださいました。
18回の回数を数えるリハーサル。そのうち15回ほどは先生ご一緒とのこと。
そんな情報もメンバーから伺いました。
緻密な仕込み、つまりはリハーサル。
実際の音の現場で「普通に」「美しく」「あるように」「何事もなく」「自然に」
聞えるようになるためには、実は細部にわたるまでメンバーが共有するべき情報が楽譜には数え切れないほどあります。自分のパートのお仕事だけではアンサンブルは成り立たないのですね。
そういうところが、最近企業の皆さんが「オーケストラをお手本に」というお話をされている由来でしょう。
自分の務めを果たし、人の務めも知り、コミュニケーション力を高めて場を活性化する。
良いアンサンブルにはそれが何よりも必要。
私の知る限り、このアンサンブルフランという団体はそのすべてを持っています。
15年を超えるお付き合いで体験していますが、15年の間にその力もどんどん開発され育ち変化し・・・
そんなアンサンブルグループです。
「町人貴族」は全部きちんと聴くのは本日初めてかもしれない・・・・・
うっかり途中の6曲目で「あ、終わりか」と思ってしまいました。
解説を読んで汗汗・・・・・組曲版ではこれは終曲ではなく第6曲目として置かれるということ。
勉強不足であります。
個人技、名人技を要求する作品でもありますが、
山口氏、ピアノ、ハープの客演の皆様以外はアマチュア奏者のお歴々。
もちろん積み重ねあってのことと思いますが、本番で十分に奏でることができるというのは、素晴らしい才能です。
この曲を聴きながら、7曲目あたりで突然自分の頭の中にメッセージが飛んできて・・・
「世の中、不公平なのが当たり前なんだよね」
後でメンバーの皆さんにもお話しましたが、なんでこれが浮かんだか不明であり、
後でおもむろに解説を読んでみて、「ふむふむ」と独り納得してしまった次第。
モリエールの原作は読んでいませんが、たとえば日本の落語にも出てきそうな題材、
その背後にある深くおかしく哀しいテーマ。
Rシュトラウスがリブレットから描き取った音の様々な遊びの中に埋め込まれた様々な概念。
偶然そのほんの一部を本日の客席でキャッチできたのかもしれない。
それは演奏が良かったからに他ならない。
そして昨日のお疲れもあるであろう日立フィルの皆様も数名ロビーでお目にかかり休憩修了。
後半の「グレート」
言葉がありません。
素晴らしかった。理想的なあり方、理想的なバランス、
自分の中では「かくあるべし」の演奏と感じています。
これまでの聴衆としての演奏会体験で、本当に数えるほどそういう本番に出会っていますが、
そのうちの貴重な一回だと思います。
これもメンバーにお話ししましたが
古典派の曲、初期ロマン派の曲、
そのあたりの時代、現代のような指揮者の在り方を前提としては作品は書かれていないのですよね。
様々なアンサンブルの形態を持つ作品ととお付き合いさせていただいてる自分ですが、
「この部分は指揮者不要」「ここは指揮者の役割」などなど、作品の中でも様々な役割分担があるものです。
すべて指揮者がコントロールしているわけではない指揮者つきのアンサンブルの現場。
良い関係にある両者=つまりはオーケストラと指揮者、の場合、阿吽の呼吸でその役割がめまぐるしく交錯し
信頼のもと、お互いの役割を果たし一つの作品を生きたものにしてゆく。
その信頼を得るまで、指揮者は一生修行なのです。
ということはさておいて、
本日の「グレート」
これまでにないアンサンブルフランの音色も聞こえてきました。
それはシューベルト独特の調性の移ろいが聞こえてくる音色、
そしてリズムに描かれた言葉の重さが判断できるテンポ設定とテンポ感。
「これです!」
天国的な長さを持つと評されている交響曲ですが、
気持ちの良いあっという間の旅に聞こえました。
語りつくせない本番であったと思いますが、この辺で語るのはやめましょう。
今年の6月、そして来年の2月と・・・・このあと2回続けてこの素晴らしいアンサンブルの皆さんと本番があります。今度は自分が作品に対して、アンサンブルに対して ちゃんと役割を果たす番です。
自分の仕事はじめます。
良いコンサート・音楽というのは本当に様々な力を心に分け与えてくれるものです。
深い感謝を・・・・ありがとう!Kiitos!
今日は友達の日、音楽を軸にしてつながりが広がってゆく日々。
素敵な御縁に自分は音楽でお返しをしてゆきたい。
今度は自分が作品の望む姿を描く番。
そこに想いを馳せるだけでも100年、200年生きて行ける。
コメント
コメント一覧 (4件)
昨日はご来場ありがとうございました。
また、お褒めの言葉、恐縮です。
シューベルトを手探りで勉強し、
大きなうたの流れとそのつなぎに心を配る内に、
何かと詰めたり端折ったりだけするのではなく、
指揮者と相対した時にこそ、指揮者の意図を汲みつつ、
団員が音楽をより大きく豊かにすることに心を配らねば
ならないのだと、この歳にして再認識しました。
(亡くなられたスウィトナー先生とN響の演奏の魅力のように)
先生をお迎えしての練習楽しみにしております。
>関口@無免許様
コメントありがとうございます。本当にお疲れさまでした。
そして素敵な演奏会をありがとうございます。
皆様との次回の時間を充実させるべく、こちらも探索を続けます。
一昨日はご来場ありがとうございました。
また,過分なお褒めの言葉ありがとうございます。
唐突ですが,終わりが来ることが判っているから,積み重ねられる今が楽しいのだと思います。
長いようで短い,1年間の音楽の旅,楽しみにしています。(ポケットから何を出して見せていたでけのか,ワクワクしています。)
>寺山様
おはようございます。コメントありがとうございます。
今のアンサンブルの時間を楽しんでいらっしゃる皆さんが生み出す時間は格別ですね。ポケット・・・いっぱいにしていきます(^^ゞ