ヴェンゲーロフ祭り、終演

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マキシム・ヴェンゲーロフ氏をソリストとして、シベリウスのヴァイオリン協奏曲初期バージョン、
東京フィルハーモニー交響楽団の皆さんと共演のコンサート終了です。

大変に貴重な機会をいただきました。

今回使用された1904年版の初期バージョンは、リーナウ社があらたにスコア&パート譜をプリントしたものです。レンタルです。これは、昨年12月に出版された、ブライトコプフ社のJSW全集版と同じものです。少し記号の記載が異なりますが、内容は同じです。JSWの方も権利はリーナウが持っているものです。

この全集編纂者により校訂報告が入った版の楽譜で演奏されたのは、今回初めてになります。
世の中に唯一録音CDが出ている、BISレーベルのラハティ響・ヴァンスカ指揮・カバコスのソロの楽譜とは、
異なるところがいくつかあります。

録音を聞かれて本日ご来場の方は、きっと「あれ?」と思われたところがあったと思います。

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ヴェンゲーロフさんとは、28日、31日の2回リハーサル。そして本番。
今回暗譜でこの作品を弾かれたことは正直驚きましたが、リハーサルごとにどんどん作品を手の内にされ、内側に深く潜ってゆくさまはすぐ近くで感じられました。

非常にテクニックを要求される初期バージョンです。第1楽章の2つのカデンツは知られるところですが、現行版にあるものがはじめに、そしてバッハを思わせる深遠な長いカデンツが後半にあります。2つ目のものが非常に美しく重みがあって聴きごたえがあります。初演当時、これを遺してほしいと、シベリウスの身近にいた人は作曲者に告げていたようです。

オーケストラにも魅力的なパッセージが初期バージョンにたくさんあります。一方オーケストレーションが現行版と異なるので、通常慣れている演奏者は楽譜の風景の違いに戸惑います。「べつもの」と思って取り組んだ方がよいと語る楽員もいらっしゃいました。

ソリストの左手の動き、弓の速度をこれほど自分の左半身で凝視しながら指揮をしたコンチェルトはないかもしれない。シベリウスが綴った、難解な超絶的なパッセージを、すべて明確にきちんと演奏されたマエストロ。
その音とオーケストラのコラボという意味では、初期バージョンの方が、はるかに現行版より難しいです。

伴奏とソリストという関係で作られていないシベリウスの協奏曲。だからこそ、作品の構造とシベリウスの音楽のフレーズを維持したまま、細部を精密に成立させることの厳しさ、それを指揮しながら痛感していました。
でも、その濃密な緊張感、心地よかったです。

ヴェンゲーロフ祭、という企画で毎年開催されている公演。指揮活動もされている方です。
後半は、ベルリオーズの幻想交響曲を指揮。リハーサルも拝聴しましたが、いろいろなアイディアと、こだわりがとても自分にとって興味深く面白かったです。

今回のオーケストラは、東京フィルハーモニー交響楽団。1991年のコンクールの折は、本線で「牧神の午後への前奏曲」をファイナリスト5名分演奏してくださった楽団です。自分はそのあと、大野和士さんのアシスタントをしばらくさせていただいていたので、マエストロがされていたオペラコンチェルタンテの企画の折に、随分公演でご一緒の機会がありました。それ以来ですね。

オペラの仕事を多くされている楽団です。ソリストへの耳の運び方は本当に素晴らしいと感じました。
お疲れ様でした。ありがとうございました。

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音楽の友誌の座談会でご一緒した、ハルダンゲルフィドル奏者の山瀬理桜さんもご来場くださいました。
終演後、集いの席に私も少しお邪魔しました。

ヴェンゲーロフさんは、次の公演地はパリ。世界的なソリストの探究の姿勢とリハーサル(個人リハーサルは深夜まで及んでいたことを伺っています)の積み重ねの凄みを、すぐそばで実感できたことも、大きな宝でした。

初期バージョン、初稿版という表記、混在してますが 楽譜成立についてちょっと煩雑な事情がありますね。
シベリウスは、ピアノとソロ用に先に楽譜を完成させています。それが1903年の初稿版。オーケストラは1904年に初演。そこからすぐに作曲者自身手を入れて、現行の改訂班になって初演されたのが1905年。R.シュトラウスの指揮でした。1904年の初演から改訂稿決定まで、いろいろ手が加えられています。本当の意味でオリジナルの楽譜は紛失しているという研究者の報告から、JSWはこの1904年のスコアを、初期バージョンと命名しています。

日本でこの版が演奏されたのは、2005年の佐藤まどかさん、2007年にも佐藤まどかさん、2014年に三浦文彰さん、そして今年のヴェンゲーロフさんです。昨年はラハティの音楽祭でも演奏され、そのソリストは、イリヤ・グリンゴル、なんとヴェンゲーロフさんのお身内です。ヴィルティオーソの演奏家の皆さんにより、この先も演奏の機会は増えそうですね。なんといっても出版レンタル譜ができています。演奏許可を取ることについて、この先変化があるのかどうかは、調査が必要です。これまでも、楽譜を所持していたところは、「遺族会の許可が出たらお貸しします」という段取りを踏んでいました。

昨日の神戸大学から引き続き、北欧シベリウスの世界にどっぷりの二日間でした。
今年は、まだまだ続きます。

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コメント

コメント一覧 (2件)

  •  昨夜のステージをサントリーホールのP席から拝聴しました。新田先生の指揮を正面からじっくり拝見できるのは2007年のクッレルヴォ以来ですが、あの当時よりもさらに悠然たる風格を身につけられたと思いました。
     この「新曲」を仕切っているのは一見ヴェンゲーロフ氏のようですが、シベリウスについての識見の深さと豊富な演奏実績を土台にされた、新田先生の確信に満ちた「初期バージョン」の扱い方はとうてい余人の及ぶところではなく、ソリストを盛り立てながら的確な指示を次々とオーケストラに出して行かれる練達で堂々たる指揮ぶりは、まさにこのステージの主役に他ならないと感じました。同行のY氏、名古屋から馳せ参じたI氏も異口同音「貫禄十分の指揮だ!」でした。誇らしくも嬉しいことです。
     考えてみれば、これだけの力量を秘めて居られる新田先生にとっては、演奏技術に長けた東フィル相手であれば、このステージのご成功など当たり前のことだと思います。
     「現行バージョン」に親しんだ耳には、「初期バージョン」は「あれ?」の連続で、
    それなりの面白さは分かりましたが、シベリウスのアイディアの盛りつけが少し多すぎて消化不良になりそうです。
     ヴェンゲーロフ氏のようなヴィルティオーソの演奏家にとっては技巧のオンパレードは挑戦し甲斐があるでしょうが、「現行バージョン」と並行して演奏機会が増えるとは、保守的な聴衆には考えにくいところです。むしろ「現行バージョン」から省略された部分のみを集めて組み立てた協奏曲第2番があれば面白そうです。
     いつもながら丁寧でキビキビした新田先生の指揮ぶりに比べ、ついでに聴いたヴェンゲーロフ氏の「幻想」の指揮は、ムードを盛り上げるには効果的かもしれませんが、分かりにくい動きが多いように思いました。プロのオケですからちゃんとついて行きましたが、アマチュアには無理でしょう。
     しかし、熱演は大いに楽しむことができました。P席というのはオーケストラの各パートを別々に聴きとることができることを発見しました。
     今回のお仕事を機会に、あちこちからさらにリクエストが出てくるような予感がいたします。それは嬉しいことですが、いま以上にご多忙になるとお疲れが心配だという取り越し苦労をしております。

  • junsinさま
    こんにちは。ご感想ありがとうございました。今回の機会は、私自身とても多くのことを得ることができたと思っています。リハーサルを通して、本番を通して・・・。そしてこの初期バージョンで名手と、また東フィルの皆さんとご一緒できためぐりあわせにとても感謝しています。積み重ねてきたものの延長線にある公演だったと認識しています。
    これからも、素晴らしい音楽家の皆さんと素晴らしい作品にじっくり向き合う機会を得られるように、やはり精進続けるしかありません。
    ホールにいらしてくださったお客様に、作品のメッセージをお届けできること、それは何よりの喜びです。それはまだまだ自分を磨き続けなくてはいけませんね。またお聞きいただけますように。本当にありがとうございました。(^^♪

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