この<日本管弦楽の名曲とその源流>シリーズのプロデューサーである一柳慧先生とは、2年前からご縁をいただいている。日本フィンランド新音楽協会の会長をされている。
今回、一柳先生の新作、ピアノ協奏曲第5番「フィンランド~左手のための」を楽しみにしていた。
ソロは舘野泉先生。こちらはシベリウス協会の会長である。お二人のフィンランドと音楽的縁の深い音楽家が生み出した作品、その響きはいかに?
本日はステージリハーサルから拝聴。プログラム順で行われた。
途中少し端折りながら、しかしすべてのことがクリアーに見える采配。さすがにマエストロ下野氏である。
リハーサル後、一柳先生と軽食を頂きながらお話。作品の感想などもお話させていただきながら、フィンランドでの演奏会のこと、これからのご予定など、いろいろ興味深いお話を伺った。
一柳先生は夏にフィンランドの音楽祭に連続して招かれている。
19時開演。客席はかなり埋まっている。
まずはケージの「エトセトラ2」から。ステージ上はオーケストラが4群に分かれている。指揮者も4名。
マエストロ下野氏のほかは、若手の皆さん 金沢でお会いした沖澤さんは紅一点。大河内さん、松村さん、この4名の指揮者がそれぞれのグループの前に立つ。今日はステージマネージャーは大忙しの公演。
ステージスタッフもほかのオーケストラから応援が呼ばれていたようだ。
テープ録音+4群のオーケストラ。しかしその中からソリストたちが時間の中でチョイスされ、単独で奏でまた群に帰ってゆく。
この作品の初演は1986年、サントリーホールの杮落し。それからもう26年が経過している。自分は今回が初めて聞いたわけだが、おそらく26年前とは全く印象が違う作品だと思う。
この四半世紀で音楽を取り巻く環境も、音楽との距離も 世界的にも日本国内でも大いに変化があった。
そのことを踏まえて考えながら、現象を楽しみながら拝聴した。
解説と一柳先生の言葉にあったように、「哲学」「禅の思想」そして和の造形の影響・・・
演奏する行為の姿、律動、指揮の動き・・・それらが演奏会だと視界に入ってくるが、この作品には継続した演奏の運動性がほとんどない。それが現実の社会の現象とマッチしていて、テープ音を受け入れられると自分は感じた。
解説にもあったが、通常の演奏会でみられる 指揮者による統一、作品に内在する限定されたメッセージの実現なるものを避けていること、それは広義では現代の指揮者の仕事への質問状にも感じたわけだ。
その点でも面白かった。客席はいろいろな感想であふれていたように感じた。
大いなる舞台転換があって(本当にステージマネージャーの皆様お疲れ様でした)
休憩時間も20分とたっぷりとられていた。
ロビーカフェで、大使館の皆様とお話。
後半は、一柳慧先生のピアノ協奏曲第5番「フィンランド」
正直のところステージリハーサルを拝聴していて自分は驚いた。このような音が聞けると思わなかった。
自分はとても好きな音、音の世界が広がっていた。
本番、舘野先生が奏でるピアノソロからゆっくり始まり、たちまちSuomiの大地の香りが漂う。
ステリハでもそれを強く感じた。 本当にフィンランドの風景が見える。
一柳先生の使われる音の数は、多くはない。特にピアノパートの源流は、単音、音同士の緊張感が美しく音楽になっている配列。シンプル。これぞ、Suomiと自分は感じた。ファゴットのソロが印象に残った。
舘野先生も本番は、さらに一音への想いが深かったように感じられた。
客席も湧いていた。
最後は一柳先生の「交響曲第8番」管弦楽版での演奏は今回がはじめてとのこと。
この作品も冒頭から自分はSuomiを感じてしまった。カレワラの世界・・・そのようなものも。
昨年の震災をうけて書かれた作品とプレトークでも語られていた。
日本は大自然の脅威にいつもさらされているということを国全体で認知し自覚し受け入れている国土、国家。
そのようなお話もあった。その通りだと思う。だからこそ、それを大前提とした国造りを、高い技術力を持ってすすめてゆく近代国家の歩みを必要としていた・・・・今からでも遅くはない。
この作品も決して音は多くない。隙間の見える楽譜。その空間にフィンランドの音楽と大地を感じるのかもしれない。原始的な鼓動・・・それが作品の最後まで聞こえていた。とても魅力的な作品だった。
客席からも盛んなブラヴォーが。
マエストロとオーケストラの皆さんの、音そのものの力を浮き彫りにさせた演奏も素晴らしかったと思いました。
マエストロ楽屋へご挨拶に伺い、一柳先生とも一言二言、先生も演奏をとても喜んでいらしたように見ました。
そして舘野先生のところへ。
フィンランド大使館からも3名いらっしゃっていました。皆さん喜んでいらっしゃいました。
舘野先生と、大使館の皆様。本当にいつもお世話になっています。先生は現在ツアーの最中。来年まで続く長いツアーです。超がつくご多忙。しかしお顔がお元気。音楽への喜びがあふれている・・・そのような表情でしょうか。
コメント